APK PUBLIC Vol.2

「APK PUBLIC」は、新進アーティストやキュレーターによる都市の風景を担う大規模な作品発表の場として、TODA BUILDINGの共用空間を活用し、更新性のあるパブリックアートを展開するプログラムです。来街者やオフィスワーカーが日常的に作品のある空間を体感し、クリエイティビティが刺激されることで、視野の拡張をもたらし日々の生き方や働き方を豊かにしていくことを目指します。
Vol.2では、キュレーターに藪前知子(東京都現代美術館学芸員)を迎え、「未完の都市:The Becoming City」 をコンセプトに、手塚愛子、藤倉麻子、渡辺志桜里の3名のアーティストによる作品を展示します。
未完の都市:The Becoming City
東京の中心に位置し、明治以来、都市の造成に関わってきた戸田建設の本社。その新社屋のパブリックスペースに展開する本プロジェクトは、手塚愛子、藤倉麻子、渡辺志桜里の3人の作家がこの場所のために生み出した新作によって、都市とは何かを問い、そのイメージを再解釈するものです。ここで可視化されるのは、政治や資本、物流、社会的欲望、歴史的な因果など、都市空間を生成させるもろもろの力です。都市とはこれらがぶつかりあう摩擦のプロセスであり、そうした定まらない姿としてのみ現れるものではないでしょうか。
手塚愛子の作品は、都市を一つの身体とみなすような想像力の中で、壊すことと作ることが同時に行われてきたその生成の物語に向き合うものです。国家儀礼の祭祀服、古地図、買い物メモやネイルアート——近代の担い手たちの歴史から今を生きる人々の日常まで、多層的なイメージの中に、ものを作る人間の営みの連鎖が浮かび上がります。
近代都市の生成が垂直方向へ広がる欲望に結びついているとしたら、藤倉麻子の作品が提示するのは、水平方向への想像力といえます。ビルのポーチに現れるもう一つの入り口から、太陽の光という外在的な原理に導かれる、オルタナティブな架空の都市の姿が現れます。
効率優先の建設の現場においても、今なお地鎮祭は欠かせない儀式です。そうした現代に残る霊性に着目しつつ、能舞台の下に埋められている音響装置としての甕(かめ)をモチーフとする渡辺志桜里の作品は、都市や国家の生成に際して、その古層に、抑圧されながらも残り続ける声に触れるものです。
新社屋の完成された空間に、作家たちの想像力によって現れるこれらの細部は、合理性や画一化された価値観から離れて都市をイメージすることへと私たちを導きます。そのとき、記憶の堆積、偶然や予測不可能な未来をはらみながら、世界が本来もつ豊かさを感受する回路がひらかれるはずです。全ては移り変わりの中にあり、そして誰もが、いかなる場所も支配し占有することはできないことを伝えつつ。
— 藪前知子
INFORMATION
- 会期
2026年6月1日(月)~2027年11月30日(火)
- 時間
7時~23時 (年中無休/1月1日を除く)
- 会場
TODA BUILDING 広場、1-2Fエントランスロビー(東京都中央区京橋1-7-1)
- 入場
無料
- 主催
戸田建設株式会社
- 協賛
株式会社川島織物セルコン
株式会社日本HP
- アーティスト
手塚愛子、藤倉麻子、渡辺志桜里
- キュレーター
藪前知子(東京都現代美術館 学芸員)
※各アーティストによる作品解説は現在準備中
展示作品
手塚愛子《生きるものを容れるもの(戸田建設史からのスタディ)》

《生きるものを容れるもの(戸田建設史からのスタディ)》 2026
ジャカード織(EPOTEX、手塚愛子によるデザイン)、シホンに昇華転写プリント、木、竹、PLA 樹脂、オーガンジー、ラインストーン、糸、ビーズ、既製品の織物、アルミ
Photo: Shintaro Yamanaka
織物制作·協賛:株式会社川島織物セルコン
資料提供:戸田建設株式会社、大阪歴史博物館、川島織物文化館
古地図資料協力:有限会社秦川堂書店
シホン昇華転写プリント:日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社
手塚愛子は、織物や刺繍を解体し、ほどき、編み直すことで、そこに蓄積された時間や歴史を可視化してきた作家です。絵画への問いから出発しながら、彼女は布を単なる支持体ではなく、手仕事、技術、制度が交差する構造体として捉え直してきました。近年は、近代史の象徴的な図像を引用しつつ、個人の生や身体と大きな歴史を接続させるインスタレーションも展開しています。
手塚がエントランスに出現させるのは、解体と構築を繰り返してきた近代都市の歴史が、多層的に体感される空間です。マーシャル諸島の海図にヒントを得た、場所の関係を身体感覚によって捉える地図や、近代織物史などを織り込んだ万博にまつわる作品。これらとともに展示される新作の西陣織は、江戸末期から現在に至る東京の中心部、戸田建設本社周辺も含む土地の記憶を、新陳代謝を繰り返す身体的な想像力とともに浮かび上がらせる作品です。東大寺の大仏開眼という国家儀礼に用いられた祭祀服が包む空間に、古地図や戸田建設の歴史、近代都市東京の造成風景などが折り重なります。一方で、作家が道で拾った誰かの買い物メモや装飾された爪のイメージは、そこに生きる個人の日々の営みを暗示します。強固な構造物と柔らかな身体、そのあいだに、幽霊のような存在として都市の輪郭が現れます。
藤倉麻子《オープンサンライズシティ・プロトコル》

《オープンサンライズシティ・プロトコル》2026
映像、日干しレンガ、土壁、鉄骨コラム、プラスチックパレット、LED ビジョン、スピーカー
Photo: Shintaro Yamanaka
協賛:株式会社日本HP
撮影協力:早稲田大学、日本ファブテック株式会社、UBE三菱セメント株式会社、MUCC商事株式会社、石津建材株式会社、有限会社沼田建材、戸田建設成田工場
協力:株式会社プロキュアメントステーション、イソンジャパン株式会社、株式会社サクセスデジプラス
藤倉麻子は、都市と郊外を横断するインフラストラクチャーや物流の風景に着目し、それらを3DCGアニメーションで作り替え、人間を超えたスケールで生成したり、あるいは非人間的な視点から観測されるユートピア的な環境を、既存の都市のオルタナティブとして描いてきました。
本作では、都市の造成に関わる現代の東京近郊の風景に、架空都市「オープンサンライズ・シティ」をめぐるフィクションが重ねられます。苛烈化する太陽光を遮りつつ、朝日を最大効率で取り込むことを維持するための、巨大な岩盤に守られた二層構造の世界。そこでは都市自身が、人間とAIの協働によって構築されたOSとして、膨大な時間軸を同時に接続しながら、巨大な意思を持ちそこで起きる出来事を観測し続けています。日干しレンガを積み上げながら、自主的に都市建設へ参加する人々。都市の運用の裂け目を暗示する糸杉や、人間を超えるOSの時間軸に適応してしまった作業員の存在。管理と逸脱が織り合わさった物語の中に、垂直ではなく水平方向へ、脱中心的に拡張し生成する都市の想像力が現れます。スクリーンの前に積み上げられた日干しレンガに座って、私たちは、現実の都市のただなかで、まだ見ぬ都市の夢に触れることになります。人間はなぜ都市空間を必要とするのか、そして、そこでの幸福な生の条件とは何かをおのれに問いかけながら。
渡辺志桜里《Stock》《地霊》

《Stock》2026
ミクストメディア
Photo: Shintaro Yamanaka

《地霊》2026
ミクストメディア
Photo: Shintaro Yamanaka
リサーチ協力:紀南アートウィーク
協力:秋葉優一、卯城竜太、新宿歌舞伎町能舞台、さどの島銀河芸術祭、戸田建設株式会社、橋爪亜衣子、伴 祐子、林 茎子、庄子 渉、大興産業株式会社、BEPPU PROJECT、別府大学 安田 豊、宮本進吾、吉田盛之
渡辺志桜里は、生態系から家族、共同体、国家まで、人間と生物の境を超えて複雑に絡み合い存在する関係のシステムに着目しながら、排除や権力の発生する構造を問い直し、脱中心的な思考を重ねてきた作家です。
《Stock》は代表作《サンルーム》を株分けするシリーズで、植物、魚、バクテリア、水の循環によって、自律的に維持され変化しつづける環境が生み出されています。「stock(株式)」と植物の株分けを重ねたこのエコシステムを、渡辺は企業に一定期間貸与するプロジェクトを続けてきました。都市を成立させる経済活動と、人間を超えた環境が接続されることで、価値や所有など、これまで当たり前に考えてきた概念が揺らぎはじめます。
本プロジェクトのための新作《地霊》は、音響効果を増幅させるために、古くより能舞台の床下に埋められてきた甕(かめ)から発想されました。これらが並ぶ目に見えない舞台に召喚されるのは、桃太郎が退治した鬼=温羅(うら)や土蜘蛛、隼人など、伝説や伝承に現れる、国の成立に際し圧服させられた存在を伝える声です。鳴り響くのは、邪や魔を退け土地を清める、反閇(へんばい)という呪術に由来する能の足拍子。この音は、抑圧された古層の声を鎮めるのか呼び覚ますのか――。この地で何度も起こってきた地震が破壊と再生の機会をもたらしてきたように、両義的な可能性を持った響きが空間を満たします。
アーティスト

手塚愛子
1976年東京都生まれ。ベルリンと東京の二拠点で作品制作を行う。2001年武蔵野美術大学大学院油画コース修了。2005年京都市立芸術大学大学院油画領域博士後期課程修了。2010年五島記念文化賞美術新人賞により渡英。その後文化庁新進芸術家海外研修制度により渡独。織られたものを解きほぐす作品を1997年より開始し、歴史上の造形物を引用、編集しながら新たな構造体を作り出す独自の手法により制作を続ける。主なコレクションに国立国際美術館、京都国立近代美術館、東京都現代美術館、ベルリンアジア美術館、韓国国立現代美術館など多数。

藤倉麻子
1992年埼玉県生まれ。東京都在住。都市・郊外を横断的に整備するインフラストラクチャーや、それらに付属する風景の奥行きに注目し、主に3DCGアニメーションの手法を用いた作品を制作している。近年では、埋立地で日々繰り広げられている物流のダイナミズムと都市における庭の出現に注目した空間表現を展開している。近年の参加展覧会に、マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート(森美術館、2025)、第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館『中立点—生成AIと未来』(ヴェネチア・ビエンナーレ日本館、2025)などがある。
渡辺志桜里
1984年東京都生まれ。2015年に東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業後、17年に同大学大学院を修了。代表作として知られるインスタレーション作品《サンルーム》は、渡辺にとって身近な遊び場であった皇居から採取された植物、魚、バクテリアを生育する水槽を繋ぎ合わせ、その水を循環させることで、人工的な生態系を作り出している。作品制作の背景には、生物全体の種の絶滅・保護・排除の関係性、生態系の視点から見た国家という共同体、民俗的慣習や祭事に潜在する自然と人間との営みに対する独自の観察がある。
キュレーター

藪前知子
1974年東京都生まれ。東京都現代美術館学芸員。企画担当した展覧会に「大竹伸朗 全景 1955-2006」(2006)、「山口小夜子 未来を着る人」(2015)、「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」(2015)、「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(2020)、「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する](2021)、「日本現代美術私観 高橋龍太郎コレクション」(2024)、「岡﨑乾二郎 而今而後 ジコンジコ Time Unfolding Here」(2025、以上、東京都現代美術館)など。「札幌国際芸術祭2017」「αMプロジェクト 東京計画2019」をはじめ外部キュレーション、雑誌・ウェブ等に現代美術、カルチャー全般についての寄稿多数。
